◆ライナーノーツ ◆

私は普通じゃない
普通になりたい
と願っている人がいるとしたら。

必要なのは
「私は普通だ」と信じる力だけ。
だって、普通なんてないんだから。

そういう物語を書きました。

人間社会で生きるのって大変。
いろんな人とぶつかりながら、主張したり引っこめたり、バランスを取りながら
それでも私らしく生きたい。私は私でいる意味がほしい。
どうしてこんなに大変なんだろう?
ただ生きるだけのことが。

それは
全員、おかしいからです。

誤解をまねくことを承知で言うならば
全員、おかしいのです。

その中で普通になろうなろうとしたって無理な話。
人間は、本来ただのケモノの一種のはずですが
なぜか、自然が許す速度を超えて環境を変化させることを覚えました。
それでも原始からの望みは残っている。
幸せになりたい。孤立したくない、安心していたい。

そこで昔から一つの答えとして認められてきたのが、
「マジョリティでいれば、とりあえず安心できる」というものだと思うのです。

だけど今の時代の人々は、その答えが幻想だと気付き始めています。
必死で努力して、背伸びして、万人に愛されることを目指しても
安住なんてできない。

それならば信じるべきは自分だけ。
【あなたをリアルにして。私にも見えるように。】

―――
私の親友が、先日亡くなりました。
彼女はこの社会の空気を読み、マジョリティであろうと努力し、マイノリティである自分と戦い、
そして一部の人々からは誤解をされたまま、浴室で亡くなりました。

どうしてそんな幻想にとらわれてしまったの。
やわらかく呼吸をして生きるために、あなたに必要なのは
無理に身に付けた強さなんかじゃなかったのに。

彼女の生きたつらさ、苦しさ、それでも諦めなかった努力を形に残すために
この芝居の主人公【天野みどり】は生まれました。
もし、私の親友があとほんの少しだけ天野みどりの様だったら。
そしたら彼女はもう少しだけ楽に生きられたかもしれない。
これは私の弔い合戦。
―――

【天野みどり】は優しい人です。
その優しさは彼女の首を絞める。
もっと甘えれば生き易いかもしれないのに
自分のポリシーを曲げず、責任を持とうとする強さ。
信じるに足る自分であるために、いつも気を張って、必死です。

ラストシーン、彼女はもう旅立っていますが
それは冴木が自分を受け入れてくれると知ってもなお、改めて、自分の意思で、
「冴木の元に帰ってきて、子供を産んで家族になる」という選択をするためなのです。

そして幕開きからずっとお客様の気持ちを率いて
「対みどり」として立ってくれる【村上瞬】。
彼はヒトのオスとして、保守的に古典的に「あるべき形」になることを望みます。
つまり、「幻想側」の人間。
その幻想は、みどりのポリシーとは合いませんから
村上君は、手を繋ごうとする相手を間違えていたのです。
救いは、彼が自分でその過ちに気付いたこと。

「マジョリティ=安心」を信じること自体は、私は否定しません。
だけど、全員がそうじゃない。
もっと言えば、あなたの思うマジョリティともう一人の思うマジョリティは
きっと同じじゃない。

そのことを感じる機会が、これから先もっともっと増えることを望みます。
それによって、もっと呼吸がしやすくなるはずだから。

村上君を幻想、みどりを理想とするならば
【冴木要司】は正の人、【早川あかね】は誤の人です。

とてもシンプルに、捻じ曲げずに演じ切ってくれたキャストと
そのキャストをそっと、しかし力強く後ろから支え、援護してくれたスタッフに
私は感謝します。

またこういうシンプルな物語をつくれる時がたまにあったらいいな。
8月末の芝居のご挨拶が今と言うのも大変失礼な話ですが
読んでくださってありがとうございました。

どうぞ天野みどりを忘れないでください。

2013.10.20  斜あゐり




◆ 出演 ◆


兎桃
(兎桃企画)
斜あゐり
(劇的集団まわりみち'39)
慶雲
(劇的集団まわりみち'39)
菅原ゆうき



◆ STAFF ◆


作・演出 斜あゐり
(劇的集団まわりみち'39)
舞台監督
美術
撮影
山田淳二
照明 高口綾
音響 Nowhere Man
(劇的集団まわりみち'39)
舞台監督補佐 船越あやか
照明補佐 大川澄恵
久保和也
制作 細川博之
(兎桃企画)
会場 まえかつと
(卯号室)
WEB情報宣伝 七色からす
(劇的集団まわりみち'39)
フライヤーデザイン 兎桃企画